論理の変遷と社会的背景の呼応【第3回】(論理の変遷)
論理の変遷と社会的背景の呼応【第2回】(ドライブクラブとの比較)
下請けが事故を起こした。
でも、その運行を実質的に支配していたのは、元請けだった。
今回紹介する判例は、そんな“契約の骨”と“現実の骨”がズレたとき、裁判所がどう責任を再配分したかを示すものです。
契約上は「請負」だから、元請けは責任を負わない――はずだった。
でも、裁判所は契約書の文言ではなく、実際の支配構造を読み取り、「元請けにも責任あり」と判断しました。
これは、たまたま弱者が救済された判例です。
けれど、現実には、契約の骨が読めずに苦しめられている下請けが、まだまだたくさんいます。
では、どうすれば“骨のズレ”を防げるのか?
どうすれば、契約の骨を誰もが読めるようになるのか?
本記事では、判例の構造を読み解きながら、契約翻訳AIによる“骨の民主化”という問いへとつないでいきます。
契約の骨は、書かれていない。
でも、読めるようにはできる。
その道の入口が、ここにあります。
いつものように今回の判例の<事実の概要>と<判旨>を記載しますが、細かく読んでいる時間がないよという方は、下に図表を記載していますので、そちらをご確認いただければさくっと理解できます。
本連載でいう“骨”とは、
①契約の骨格(制度・条文)
②現実の骨格(支配・運行実態)
③責任の骨格(法がどこに責任を乗せるか)
の3つを意味します。
【判例識別情報】
最高裁昭和50年9月11日第一小法廷判決
(昭和49年(オ)第602号損害賠償請求事件)
(判時797号100頁、交民集8巻5号1207頁)
元請業者Y1、下請業者Y2は、いずれも貨物運送を業とする会社で、Y1はY2からY2所有の大型貨物自動車(以下加害車両という)を運転手付きで借りあげ、Y1の定期路線の貨物運送にあたらせていたが、右加害車両がY1の小諸営業所(長野県)から甲府営業所(山梨県)に赴く途中被害者運転の普通乗用車と交差点で出会い頭の衝突事故を起こし、被害者が死亡し、その遺族からY1・Y2に対し損害賠償の請求がなされた。加害車両が右定期路線を進行するにあたっては、Y1の発行する運行表の指示するコース、スケジュールに従い、営業所における荷積み及び荷下ろしも必ずY1の係員の立会いと荷物の確認を受けるなどもっぱらY1の指揮監督に服して定期路線の運送業務に従事していたもので、その上Y1がお客から受け取る運賃のうち40%を自ら取得し残余の60%をY2が取得する約定であった、というものである。一審(甲府地裁)、二審(東京高裁)とも敗訴したY1・Y2が上告。
上告棄却。
「右事実関係のもとにおいては、本件事故当時の加害車の運行は、Y1支配のもとに、Y1のためになされたということができ、Y1は自動車損害賠償保障法三条の運行供用者責任を負うものというべきであり、これと同旨の原審の判断は正当として是認することができる。所論のようにY2がY1に対し専属的、従属的関係に立つものではなく、下請負人として加害車を運行の用に供していたものとしても、右のように認めることの妨げとなるものではない。」
| 立場 | 会社名 | 主な役割・行為 | 所有・所属 | 指揮・支配 |
| 元請け(依頼主) | Y1 | 定期路線の運送をY2に委託 | 車両なし | 運行表発行、荷積み指示、報酬分配(40%取得) |
| 下請け | Y2 | Y1の定期路線を運送 | 加害車両の所有者、運転手の雇用主 | Y1の指揮監督に従って運行 |
| 被害者 | 一般人 | 普通乗用車を運転 | 事故被害者 | ─── |
| 観点 | 内容 | 裁判所の判断 |
| 契約類型 | 請負契約(Y1→Y2) | 原則としてY1は責任を負わない(民法716条) |
| 実質的支配 | Y1が運行表・荷積み指示・報酬分配を行っていた | Y1が運行供用者と認定(自賠法3条) |
| Y2の立場 | 独立起業体で専属的従属関係なし | それでもY1の責任認定に妨げなし |
| 結論 | Y1にも責任あり | 上告棄却、原審是認 |
この判例は、契約の骨がズレたとき、裁判所がどう責任を再配分したかを示すものでした。
でも、これはまだ入口です。
次回は、今回の判例の表からは見えにくい“二重構造”について読み解きます。
骨は、契約にも宿る。そして、民主化の道は、そこから始まる。