論理の変遷と社会的背景の呼応【第3回】(論理の変遷)
論理の変遷と社会的背景の呼応【第2回】(ドライブクラブとの比較)
レンタカーを借りて、もし事故を起こしてしまったら…。
慣れない車を運転していると、誰にでも起こりうることです。
そんなとき、ふと考えてしまいます。
「全部、自分の責任になるのかな?」
「それとも、レンタカー会社にも責任があるのかな?」
実は、この答えは裁判によって違うんです。
ある裁判では「会社には責任なし」とされ、別の裁判では「会社にも責任あり」とされました。
同じような状況なのに、なぜ結論が違うのでしょう。
ここで登場するのが「運行供用者責任」というルールです。
難しそうな言葉ですが、簡単に言えば――
「車を動かして利益を得ている人は、その危険についても責任を負う」という考え方。
この視点で見ていくと、判例の違いも整理できます。詳しくは、こちら。
そして大事なのは、裁判所が論理だけで決めているわけではないということ。
社会の状況や背景に合わせて、どちらに責任を負わせるべきかを判断しているのです。
いつものように、<事実の概要>と<判旨>を紹介し、最後に図表でまとめます。
図表を見れば直感的に理解できるはずです。
【判例識別情報】
最高裁昭和50年5月29日第一小法廷判決
(昭和46年(オ)第447号損害賠償請求事件)
(判時783号107頁、交民集8巻3号595頁)
本件はレンタカー業者のY(被告・控訴人・上告人)からマイクロバスを賃借して運転中のAが、ライトバンを運転中のX(原告・被控訴人・被上告人)に追突し頸椎鞭打損傷を負わせた事故につき、XがYに対し自賠法三条の運行供用者責任にもとつく損害賠償を求めたという事案である。
一審の東京地裁昭和45年2月9日判決(判タ246号245頁)は、YがAにレンタカーを賃借するにあたり、
(1)Aの免許証の有無を確認し、
(2)Aに使用時間、行先を指定させたうえ、その走行距離、使用時間に応じた賃料の前払いをさせ、
(3)Aが途中で使用時間、行先を変更する場合には返還予定時刻の三時間前までにYに連絡しなければならず、Aがこの連絡を怠った場合、Yは倍額の追加賃料を徴収するとの約定をしたうえ、
(4)事前の車両の整備はYが責任をもって行い、賃貸中の故障の修理も原則としてYの負担で行われる、という事実関係においては、「Yは借主の行先、使用時間の確認、その変更の場合における指示の確保、具体的な走行の安全に必須な日常の車両整備責任の負担、などの実情から、本件のような賃貸引渡によっては、借用期間もおおむね短期であるので、なお危険責任の観点からする自動車の運行に対する管理制御の実を具体的に留保し、いまだ運行支配を喪失するには至らないものといえる。またその自動車賃貸業は右認定のような前提条件と約旨のもとにその使用時間、走行粁(キロメートル)に応じて賃料を徴収する以上、加害車の運行そのものにより利得しているもので、その運行利益もまたYに帰属するといわねばならない」と判示し、Yに運行供用者責任を認め、その控訴審(東京高判昭和46・2・26交民集8巻3号596頁)も右一審判決を支持した。このためYが上告し、
(1)前記の賃貸借契約の条項は形式的でYにはAに対する監督・指示の権限は事実上ないにもかかわらず、控訴審判決がかかる実態を無視して本件事故に自賠法三条を適用したことは違法であるとともに、
(2)Yに運行供用者責任を認めたことは、同種の業種であるドライブクラブの運行供用者責任を否定した最高裁判決(昭和39・12・4民集18巻10号2043頁)に違反すると主張したが、最高裁は以下の理由で上告を棄却した。
最高裁は原審が適法に確定した前記(1)ないし(4)の事実関係のもとにおいては、「Yは本件事故当時本件自動車に対する運行支配及び運行利益を有していたものということができ自動車損害賠償保障法三条にいう自己のために自動車を運行の用に供する者としての責任を免れない旨の原判決の判断は、正当として是認することができる」とし、また昭和39年の判決に違反するとの主張に対しては、「所論引用の当裁判所の判例は、特定のドライブクラブ方式による自動車賃貸業者が、その賃貸した自動車の賃借人による運行に対し、運行支配及び運行利益を有していなかったとの事実認定を前提として、右自動車賃貸業者が同条の運行供用者に当らない旨を判示したものであって、本件のような事実関係のもとにおいてYを同条の運行供用者と認めることをも否定する趣旨とは解せられない。それゆえ、論旨は採用することができない」とし、判例に抵触はないと判示した。
| 区分 | 内容 |
| 当事者 | 原告X(被害者・ライトバン運転)、被告Y(レンタカー業者)、A(レンタカー借主・マイクロバス運転) |
| 事故 | Aが運転するマイクロバスがXのライトバンに追突、Xが頸椎捻挫(むち打ち) |
| 請求 | XがYに対し、自賠法3条の「運行供用者責任」に基づく損害賠償を請求 |
| 一審 | 東京地裁:Yは運行支配・運行利益を有すると認定し、責任を認めた |
| 控訴審 | 東京高裁:一審を支持 |
| 上告理由 | Yは「契約条項は形式的で実質的な支配はない」「ドライブクラブ判例(昭39・12・4)に反する」と主張 |
| 区分 | 内容 |
| 運行支配 | Yは免許確認、使用時間・行先指定、変更時の連絡義務、整備責任などを負っており、運行に対する管理制御を留保していた → 運行支配あり |
| 運行利益 | 賃料徴収は運行そのものからの利得であり、運行利益はYに帰属する |
| 結論 | Yは事故当時、運行支配・運行利益を有していた → 自賠法3条の「運行供用者」に該当し責任を免れない |
| 先例との関係 | 昭39判決は「ドライブクラブ方式」で運行支配・利益が認められなかった事案に限る。本件とは事実関係が異なるため抵触しない |
| 上告審判断 | 上告棄却 → Yの責任を認める原審判断を是認 |
この判例は、社会的背景に応じて責任範囲を広げていった流れの一部です。
次頁では、今回の判例が参照している「ドライブクラブ方式」の判例を掘り下げ、徹底的に比較していくこととします。